いじめられて学校に行きたくない子供が、朝起きて準備して学校に行こうとすると腹痛になった、とかいう話って聞いたことありますよね?
「病は気から」と昔からことわざで言われていますが、似たような経験をした人ことがあるもいるのではないでしょうか。
・熱を測ってみて熱があるのが分かったらしんどくなってきた
・嫌なことがあったりして落ち込んでるときに気持ちだけでなく体もしんどくなってきた
こういう変化ぐらいなら、誰しも一度はありますよね。
逆に、病気やケガをしてると思ってたけど病院にいってレントゲンなどみてもらって何もないことが分かったら症状がよくなったとかも聞いたりします。
気の持ちようで症状や痛みや体調が変わることってあったりしませんか?
最近の医学ではそれを説明する根拠となる研究などもでてきています。
今回は、僕自身理学療法士として長年色んな患者さんと関わってきた中で感じている私見も踏まえて、「病は気からは嘘か本当か?」について述べたいと思います。
・メンタルや精神面が及ぼす体への影響について知りたい人
・病気になりにくいメンタルや思考を身に着けたい人
・プラセボ効果について知りたい人
プラセボ効果とは
プラセボ効果の実態
開発された薬が本当に効果あるのか試す段階のひとつに、本当の薬を使った群と偽薬を使った群で比較して効果検証するという段階があります。
なぜこのような試験をするのかというと、一部の人たちに偽薬を使用した場合でも一定数効果がでる人がいることが研究で分かっているからです。
偽薬は外見上は本物の薬と差がないブドウ糖などがよく使用されます。
本物の薬と思い込んで偽薬を服用した人に、症状が軽減したり改善したりすることをプラセボ効果といわれます。
このプラセボ効果による効果を抜きにしても薬が有効かどうかを試すために、偽薬を使った臨床試験を薬の開発段階で行われるんですね。
そこから、思い込みなどで症状が緩和される場合にも「プラセボ効果」という言葉で医療現場でも使われたりします。
僕も日々患者さんと関わるなかで、この「プラセボ効果」は効く人にはめちゃくちゃ効くし、効かない人には全く効かないという印象をもっています。
信じ込みや思い込みが強い人などプラセボ効果がでやすいタイプの人がいます。
いわゆる催眠術にかかりやすい人とかかりにくい人がいるのと同じイメージでしょうか。
施設などでは、問題となる病態がないにも関わらず胸が苦しいや痛いなどの症状を訴える認知症を持っている高齢者に対して、ミンティアを偽薬として飲んでもらって対処したりされることも多いです。
本人は薬と思って飲んでいるので、プラセボ効果で症状が治まったりします。
病院で薬を出してもらってそれを飲んでるとよくなると思って安心しますよね。
高齢者で薬信仰が強い人ほど効果てきめんです。
そういう人には本物の薬を服用する必要がないわけです。
薬にも副作用はあるし飲まなくてよい薬であれば飲まないほうがいいですからね。
僕も普段理学療法士として患者さんと関わるなかで、このプラセボ効果の強さはすごく実感することが多いです。
患者さんに何もしていなくて手を当ててるだけで、痛みがとれたりよくなったりすることは結構ザラにあります(笑)。
こっちは何もしてないんですけどね笑
患者さんは治療してもらったと思って症状が勝手によくなったりします。
プラセボ効果の注意すべき点
こういうプラセボ効果がでやすい人は一見いいように思いますが、注意すべき点が以下の二つ挙げられます。
①信頼関係に大きく左右されること
②悪い方に作用すると思い込みからどんどん悪い方に悪循環に入っていきやすいこと
①について、
患者さんに医療者側が信頼されていることが前提になるということです。
同じ偽薬でも、信頼している先生が処方してくれたものだとプラセボ効果がでるけど、信頼していない先生が処方したものではプラセボ効果がでないなどが起こりえます。
この場合には、その患者に対してその医療者しかダメというようなことが起こって結構大変だったりします。
「○○さん(理学療法士)に治療してもらったらよくなる」みたいな感じです。
この場合は、○○さん以外の△△さんが代わりにリハビリを行ったりするときにすごくやりにくくなります。
結果、○○さんしかその患者さんを対応できなくなったりして、患者の医療者への依存を起こしてしまうことになります。
依存しすぎてしまうと、その患者さんにとってはよくないですよね。
一生、○○さんのリハを受けるわけではないし、病院に通い続けるわけではないですから。
②について、
こういうプラセボ効果がでやすい人っていうのは、逆の作用も出やすかったりします。
□□をすると痛くなるといったん思い込んでしまうと、そこから抜け出せず□□を全く受け付けなくなってしまったりします。
例えば、たまたまある運動をしたときに痛みが出た場合にでも、その運動をすると痛くなると思い込んでしまうという感じです。
本当は痛くないような場合でもその運動をしたら痛くなると自分で暗示をかけてしまいます。
いったんこのループに入ってしまうとなかなか強力で抜け出せません。
結果、本来行うべき適切な治療が行えないことで、治療に抵抗してよくならなかったり、どんどん悪い循環に入っていってしまうこともあります。
良い方向に作用することもありますが、悪い方向に作用することもあるので注意が必要ですね。
プラセボ効果は本当に強力です。
医療者では実際に目の前で患者の症状が変わったりするので、プラセボ効果の力は実感することが多いかと思います。
病は気からは嘘か本当か
痛みや症状はメンタルや思考の影響を受ける
前述のプラセボ効果は、起こりやすい人と起こりにくい人がいるといいました。
これは、その人のメンタルや思考過程に大きく影響を受けます。
同じように手術をした人でも痛みや症状は様々です。
長年理学療法士をしていると、このぐらいの状態だとこのぐらい痛いはず、というのはイメージがついてきます。
でも、明らかにその経験則から逸脱するほど痛がったり、逆に全く痛がらなかったりする人がいます。
今まで数千人~1万人前後の患者と関わってきたなかで、そういう痛がりの患者さんと話しているとメンタルや思考に問題がある場合が多いことをよく感じます。
中には、医学的に説明のつかない痛みや症状を訴える方もいます。
もちろん、医学がすべて解明され説明がつくものではないということもあるので一概にはいえませんが。
これは僕だけが感じている話だけではなくて、医療業界一般でも周知されている事実です。
痛みや症状には、心理的背景や社会的背景によるものも存在するといわれています。
例えば、交通事故の被害者や労災の人は、症状が悪くなったり後遺症が残りやすいといわれます。
それは病態によるものだけでなく、背景の保険関係や加害者とのいざこざや職場復帰に対する不安など、諸々の要因が重なり症状を増幅させたり修飾したりすることがあることも要因といわれます。
こういった心理的な要因を評価するスケールも作られており、僕たち理学療法士は痛みや症状を評価するときのひとつの指標として使用しています。
破局的思考と不安回避思考とは
痛みや症状を増幅したり修飾する思考について評価するスケールについて紹介したいと思います。
例として、破局的思考と不安回避思考について説明します。
破局化とは、現在および将来の痛みに起因する障害を過大評価するとともに、そのような考えから離れられなくなっていく過程のことをいいます。
痛みに対する破局的思考は痛みのことが頭から離れない状態の反芻、痛みに対して自分では何もできないという状態の無力感および痛みそのものの強さやそれにより起こりうる問題を現実より大きく見積もる拡大視の3要素からなります。(西上智彦,2014)
痛みによる破局的思考はPain Catastrophizing scale(PCS)によって評価します(松岡紘史,2007)
不安回避思考とは、痛みを感じたときに何か深刻な状態であると捉えてしまい、より不安が惹起され動作の回避や過剰な警戒心が生じ、廃用・抑うつ・身体障碍が起こり、さらなる痛みへと悪循環となる思考のことをいいます。(西上智彦,2014)
不安回避思考の評価は腰痛に特化したFear-Avoidance Beliefs Questionnaire(FABQ)(松平浩,2011)と、腰痛だけでなく四肢の関節障害も評価可能であるTampa Scaele for Kinesiophobia(TSK)(松平浩,2013)があります。
一般住民を対象にした研究では、PCSやTSKは6ヶ月後の腰痛の強度やそれによる障害の予測因子になることが報告されています。(Picavent,2002)
また、健常者を対象に同じ痛み刺激を加えても、PCSやTSKのスコアが高い被験者ほど痛みをより強く感じることが報告されています。(Parr,2012)
このように破局的思考や不安回避思考は痛みに深く関与しています。
僕の臨床の経験の中でも、こういったスケールの結果と患者の痛みや症状は関連している印象を受けます。
病態以上に症状を増幅させたり修飾する思考の特性はあるようです。
一般的にいわれている「病は気から」というのはあながち嘘ではなくて医学的にも理解された真実といえるのではないでしょうか。
病気を治しやすいメンタルや思考を獲得しよう
痛みや症状は、メンタルや思考により増幅や修飾されることがあると述べました。
「病は気から」というのはあながちことわざだけの話ではなくて、医学的にも証明されている事実です。
では、どうすればいいのでしょうか?
その人が持ってる性格や性質だから変えることはできないのでしょうか?
結論からいえば、思考やメンタルの問題なので変えることは可能な部分もありますが、期間を要したり労力を要することも多く、なかなか変化させることが難しい場合も多いです。
患者マインドを変化させることが大事になってきます。
患者の中には「医療者」に「治してもらう」という思考が強い人がいます。
その思考から「自分自身」で「治す」という思考に切り替えることが必要です。
自己効力感をつけたり、セルフマネジメントを習得することがひとつの方法になるかと思います。
自己の行動によって痛みや症状が軽減する達成体験をすることの積み重ねが自己効力感を高めます。
まずは、「痛みや症状は自分の行動で変化させることができる」という経験を積み重ねることが大切になります。
痛みや症状に対して、「どうすることもできない」、「よくわからない」という状態から前述のマイナスな思考過程に陥りやすくなります。
医療者側としては、症状や病態に対してしっかり説明し患者に理解してもらうように努め、その症状や病態がどうすれば改善するか伝えます。
そのうえで、実際に症状が軽減したり改善したりする経験をしてもらうために治療介入します。
そして、自分でこの状態にもっていきましょう!とセルフコントロールできるように自己効力感を高めていけるよう関わります。
僕の場合は、こういう風に患者と関わっていき患者の思考をよい方向に導いていけるよう関わるようにしています。
あとは、思考や認知を変える方法のひとつである認知行動療法が著効する場合もあります。
同じ出来事でも人によってとらえ方が違います。
出来事をどう認知するかで、感情や行動も変わっていきます。
認知のゆがみで生じる負の感情を軽減するために、認知や行動の変容を促すのが認知行動療法の基本的な考え方となります。
認知行動療法という治療概念だけで何冊も本が出されており、僕自身も深くは理解していない部分もありますが、勉強していきたいと思っているので、また別の機会でまとめて整理して発信していきたいと思います。
まとめ
一般的に言われている「病は気から」について、僕自身の臨床経験による私見と医療業界で理解されているところを踏まえて整理してみました。
プラセボ効果は実際に存在しており、気の持ちようで症状はよくも悪くもなるというのは真実といえるでしょう。
「病は気から」というのは本当で、実際の病態より「こころ」に問題を抱えている方も多いです。
これからの高齢化社会において病気やケガになる人も増えていきます。
僕個人としては、「こころ」の問題にも対応できるような臨床家になっていきたいなと思います。
そして、有益な情報を当ブログでも発信していきたいなと思っていますので、よろしくお願いしますね!
それでは、また!