夏の暑い日に一番気を付けないといけないのは熱中症です!
テレビでも学校の屋外活動で集団で熱中症になって救急車に運ばれたり、高齢者が熱中症で亡くなったり報道されていますよね。
熱中症は、適切な知識を持っていれば予防することもできますし、症状がでたとしても対処方法を間違えなければ最悪の結果を回避することができます。
医学知識に基づいて、熱中症の原因と予防と治療について、知っておくべき知識を伝えます。
日本救急医学会より「熱中症診療ガイドライン2015」が発表されていますので、その内容も踏まえて整理していきます。
また、環境省の「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン 2019」も参考になるので紹介しておきます。
・熱中症を防ぐために原因や予防法を知りたい人
・熱中症かもしれない場合に対処法を知りたい人
・家族に子供や高齢者など熱中症のリスクが高い人がいる人
熱中症とは
熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」と定義されています。
症状としては、多岐に渡り以下が挙げられます。
『めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状を呈するもの』
また、命が救われた場合においても後遺症が残る場合もあります。
熱中症の主たる後遺障害は中枢神経障害です。
熱中症発症時の深部体温が高く、高度の意識障害や血圧低下などの循環障害を認める場合に生じる傾向があります。
症状として小脳失調やパーキンソン症候群などの報告があり、退院時に残存する中枢神経障害は1年後も改善することなく残存することが報告されています。(Dematte,1998)
非労作性熱中症の予後については、体温がより高く、血圧が低下し、意識レベルが低下した場合に死に至りやすいことが報告されています。(LoVecchio,2007)
高齢者の独居女性で熱中症から死に至るケースが多いことも特徴です。
熱中症の原因は
熱中症の発症時期は梅雨明け後7 月中旬から8 月上旬にかけてピークを迎えます。
発症時刻は12 時および15 時前後の日中が最も多いといわれています。
体温調節機能による体内にたまった熱の放散が追い付かず、深部の体温が上昇してしまうことで熱中症となります。
高齢者では汗をかきにくくなることで発汗による熱の放散などの体温調節機能が低下している場合もあるため、屋内環境においても発症する場合も多いです。
エアコンや扇風機などの空調の使用を好まない高齢者もいるため注意が必要です。
また、体内の水分量と電解質の喪失も熱中症の要因となります。
特にスポーツや労働時に水分摂取のタイミングが不十分となることもあり、定期的な水分補給には注意が必要です。
高齢者では口渇感が低下することやトイレが近くなることを心配して水分補給を控えるケースが多いこともあり、脱水を生じる場合もあります。
環境としては高温・多湿・無風など熱がこもりやすい環境が熱中症発症の要因となりえます。
熱中症では水分とともにNa など電解質の喪失によるNa 欠乏性脱水が主な病態です。
熱中症を予防・治療
熱中症の予防・治療のための水分補給とは
Q. 熱中症の予防・治療には何を飲めばいいか?
熱中症では発汗などにより水分とともにNa など電解質も失われます。
熱中症はNa 欠乏性脱水が主な病態です。
水分の補給に加えて適切な電解質の補給が重要といわれています。
そのため、熱中症の徴候がみられた際には、水だけの摂取では不十分であり、塩分と水分が適切に配合された経口補水液の摂取が必要となります。
日本においては、経口補水液オーエスワン®(OS-1: 大塚製薬工場)が普及しています。
下痢や嘔吐などの症状が認められていても水分や電解質の吸収力を高める特性があります。
推奨されている飲水量は、
高齢者を含む学童から成人が500 ~1,000mL /日、幼児が300 ~ 600mL /日、乳児が体重1kg 当たり30 ~ 50mL /日を目安とされています。
予防の観点からいえば、スポーツドリンクでの頻回な飲水でも問題はありません。
しかし、スポーツドリンクは塩分量が少ない割に、糖分が多いというデメリットも認識しておく必要があります。
また、梅昆布茶や味噌汁なども、ミネラルや塩分が豊富に含まれているため熱中症の予防に有効と考えられています。
高齢者の非労作性熱中症は重症化しやすい
若年者の屋外での労働やスポーツ時での熱中症と比べて、高齢者の屋内での非労作性の熱中症の方が重症化しやすいといわれています。
若年者は元々が健康な状態なので、熱中症になっても軽症だったりリカバリーしやすいです。
高齢者は元々何らかの合併症を持っていたり、低栄養状態や体力の低下が基盤にあるため、熱中症になった場合に若年者と比べて、重症化したり亡くなったりするケースも多いといえます。
加えて、高齢者は喉が渇いたという感覚(口渇感)が鈍くなっている人も多いです。
夏場でも、高齢者は「喉が渇かないから飲みません」という方も多くて、体が脱水状態になっていても喉が渇かないという場合もあります。
喉が渇いた頃には既に脱水がかなり進んでいることもよくあります。
さらに水分摂取していたとしても、お茶などの塩分が少ないものを好む傾向があります。
そうなると、自分では水分補給をしているつもりでも、結果的に電解質が補給されていないため、体内の電解質バランスが崩れやすいです。
経口補水液などを意識して定時に飲むような習慣をつけさせることも熱中症の予防につながります。
冷却処置による体温低下を早期から行う
Q. 冷却目標温度と冷却時間はどのぐらいが適切か?
本来であれば、まずは熱中症を発症しないようにエアコンや扇風機などで、体内に熱をためないように熱の放散を助けてあげることが第一です。
では、実際に熱中症になった場合は、体内の熱をどのように逃がしてあげるのがよいのでしょうか?
労作性熱中症に対しては、ショック状態など生命を脅かす合併症が存在しない限り、できるだけ早期から冷却処置を行うことが推奨されています。
病院に搬送する前に水の中に体を浸しておく、または大量の水を体に噴霧させるなどしましょう。
過度の冷却によって低体温に陥らないように、深部体温のモニタリングを行いながら処置をすることが望ましいとされています。
また冷水に体を浸して効果検証した研究においては、
2℃の水に約9 分 浸しておくことで直腸温が39.5℃から38.6℃まで低下したこと、目標温度を直腸温38.6℃とした場合は冷却処置後に低体温に陥らないことも報告されています。
非労作性熱中症においても、高体温の時間が長くなることで予後が不良となる可能性が高くなります。
労作性と同様にできるだけ早期に38℃台になるまで冷却することが望ましいとされています。
深部体温が38℃台になるまで、冷却処置を行うことが後遺症を生じないためにも重要となります。
まとめ
ひと昔前は、スポーツ時も水を飲まないのが常識とされている時期もあったようです。
少し前の常識が非常識になってきています。
医学は日々進歩しており、予防や治療もガイドラインなどで標準化されてきています。
最低限の知識を身に着けておくことで予防できます。
最近は、熱中症による死亡事故や後遺症などもテレビで報道されることも増え、熱中症の予防が注目されてきています。
適切な水分摂取(経口補水液など)、体温の冷却、環境の改善などで熱中症は予防できます。
熱中症も軽症のうちに対処を誤らなければ後遺症や死亡事故など最悪の事態は回避できます。
正しい知識を身に着け、自分も周りの人も守れるようにしていきましょうね。
それでは、また!